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音を失った家

目覚めると音がなかった。

いつもなら漬け物を切る包丁や

鍋にふたをする音とともに

脳に染みてくる味噌の香りがするはずなのだが。

もちろんテレビなど点いていないらしい。

たいていは時報を告げる朝の番組が目覚まし代わりになってくれるのだが。

はて、誰もいないのかしら。

少し気持ち悪くなって静かに寝床を離れ、台所に向かう。

そこに妻はいた。

いつも通りに朝餉を作っているようなのだが、不思議と音がしない。

音がないだけで、味噌の香りも漂わないのが奇妙だ。

おはよう、と声をかけようとするのだが、口を開いても声がない。

あう、あう、と何度か試してみてから、声を出すことをあきらめる。

まぁ、静かな朝というのもたまにはよいではないか。

食卓に並べられた茶碗に盛られた飯と、湯気立つ汁碗。

色がない。

音がなくなると、色もなくなるのか。

餌を終えた愛犬が足下にやって来てわんと吠える。

いや吠えるように口を開けたのだが、声はない。

どうなっているのだ。もしや、耳がどうかなったのか。

最近流行の突発性なんとかという病かもしれない。

試しに手を叩くか箸で椀を弾くかして音を試してみようとして止めた。

もし、それで音がしなかったら、と思うと自分の病が発覚する気がして怖くなったのだ。

ずっと背中を見せていた妻が、仕事を終えてようやくこちらに顔を向けた。

表情のない顔。

生気を失った目。

能面のような額。

なにより驚いたのは、妻の顔には口がなかった。

音のない世界。

というよりは会話を失った家。

昨夜、ここでなにが起きたのかを、ようやく思い出していた。

momo

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