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妖   月

 

朧月というのだろうか、

墨汁をぶちまけたような空に

煤けた雲が浮き沈み

ちぎれた綿雲の合い間に

部分を覗かせる橙の顔。

夜半にこだまする声は狼のはずもなく

さらさらと街路樹を揺らす風が頬を撫でる。

停留所の看板は揺るぎなく。

バスが来る。

ただひとり深夜の匣に踏み入れる。

夜空に貼り付けられたまま

先を急ぐ躯体の透明なガラス越しに

いつまでも見下ろし続ける妖しの月は

建物の影に身を潜めてはまた現れて。

どこまでもどこまでも追いかけてくるのは

すべて知っているぞと言わんがばかりに

悪事の数を数えている。

二百円の道のりを追って来てなを、

ただ歩く坂道までも覗き降ろして

まだわからんのか、

お前は、お前は。

見上げれば家族の窓。

その窓の中をも覗き見ながら

そこか、そこか、知っているぞ。

十八年前のある夜。

早朝、大地が割れて、世間が揺れたとき。

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