« フィクション | トップページ | 病院の白いベッド »

音のない世界

音のない世界があった。
風に樹々が揺れている。
静かに、何も言わずに。
大きな車が通り過ぎる。
無声映画の列車のように。

犬を連れたご婦人が、
口を開けて話しかける。
はくはくはく、はくはくはく。
言葉にならない言葉が
こぼれ落ちる。
言葉ではない言葉が
地面に転がっていく。
適当に笑顔をつくって、
うなづきながら、
おしゃべりなご婦人をやり過ごす。
白い白い赤い車が、ランプをくるくるさせて通り過ぎる。
風圧が脅しにかかる。
若者に操られた自転車が
私を掠めて追い抜いていく。
影ひとつないアスファルトを、
陽光がしっかりと暖めていたが、
突如、大きな影が光を奪う。
地の上を通り過ぎる大きな黒い影。
瞬間、目の前が真っ白になって、
身体といわず、地面が揺れる。

唐突に現実がやってくる。
ひどく大きな爆裂音が聞こえて、
すべての感覚が消え失せた。

音のない世界がやってきた。

|

« フィクション | トップページ | 病院の白いベッド »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/193685/47864676

この記事へのトラックバック一覧です: 音のない世界:

« フィクション | トップページ | 病院の白いベッド »